動画投稿サイト「ユーチューブ」を活用し、農山村や農家の記録を発信し続ける農家がいる。コロナ禍で自宅で過ごす時間が増える中で、代かきや水路、農道の補修など日常の農作業風景が都市住民らの心を捉える。登録者数1万人を超す各地の“達人農チューバー”にファンを増やす秘訣(ひけつ)や動画編集のポイントを聞く。
共感者増やしたい 家庭菜園の関心高く
新潟県十日町市の元地域おこし協力隊で稲作農家の多田朋孔さん(42)は、仲間と「元限界集落から地域おこしチャンネル」を立ち上げ、現在1万人を超す。自身が機械修理にユーチューブの動画を参考にするようになり、2月からは毎日投稿。集落の高齢者の技術や知恵、農業の日常など「地域の宝を記録しておきたい」との思いで、コロナ禍でのメッセージも投稿した。
「食料やエネルギーの自給力を高めるような社会に向け、共感者を増やしたい」と見据える。
コロナ禍でユーチューブに挑戦し、農のファンを増やし、ちょっとした稼ぎにもつなげようと、全国の農家らが達人たちに助言を求める。広島県東広島市のHARADA FARMを開設する原田賢志さん(39)の元には農家や家庭菜園をしたい視聴者から毎週のように問い合わせがある。
チャンネル登録者数4万を超す。多品目野菜の栽培方法や農機具の紹介、ドローン(小型無人飛行機)を用いた農作業など、分かりやすく解説する人気チャンネルだ。
原田さんの勧めでユーチューブを始め、8万人を超すチャンネル登録者数を持つ農家もいるなど農家ユーチューバーの“火付け役”だ。原田さんの視聴者は8割が家庭菜園をする人。原田さんは「誰に見てほしいのかを念頭に置くことが何より大切」と強調する。投稿する農家が激増する中、防除で間違った情報を伝える投稿も多く、原田さんは「正しい情報発信が不可欠。信頼がなくなる」と注意を呼び掛ける。
徳島県阿南市で米2・2ヘクタールや菜の花、オクラを作る農家「徳島のかずさん」こと中田和也さん(68)。ユーチューブを始めようとする若手農家らの間ではちょっとした有名人、憧れの存在だ。
2012年からこつこつと動画をアップロードし続けてきた中田さん。現在の登録者数は2万6800人と超人気チャンネルになっている。
父の後を継ぎ農業を始めた中田さん。思うように米の収量が上がらずに苦労してきたが、「への字稲作」という施肥のタイミングなどを変える農法と出合ったことが転機となった。品質も収量も高めることに成功したことから「経営に困っている農家に簡単で米もおいしくできるへの字稲作を伝えたい」と09年にブログを始めた。しかし、写真や文字だけでは分かりにくい。動画を投稿できるユーチューブを知り、60歳ですぐに始めた。
投稿数2、3日に1本を続け、収益は上々だ。ただ、農業が主経営で、「百姓の面白さを伝えたい」という気持ちを貫き、直売する米の販売促進につなげるような仕掛けはしていない。若い人からの「農業をやってみたい」などのたくさんのコメントが励みだ。
自信作は「田んぼに掃除口を付けた」(190万超再生)、「雑草が育った中での代かき」(2回で72万超再生)など。
三脚で自分自身を撮影し、農作業後に無料の編集ソフトで字幕を付けて動画をアップする。音楽など使う時は著作権には厳重に気をつけている。
「誰にでも分かりやすい動画にするだけ。初めは誰も見てくれなかったが、いつの間にか日々の農作業を動画にしていたら人気になった」と中田さん。今では、ユーチューブをやりたいという農家が助言を求めに来るほどだ。「特効薬はないから、こつこつやるだけやな」と助言する。
<ことば> ユーチューブ
世界最大の動画共有サービス。配信が職業の「ユーチューバー」もいて、年商億単位で稼ぐ若者もいる。学研教育総合研究所によると2019年の小学生の将来なりたい職業の2位がユーチューバー。男子ではサッカー選手を抜きトップ。チャンネル登録者1万人は、社会的に影響を与える目安とされる。
日本農業新聞
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Source : 国内 – Yahoo!ニュース